駒落ちとは、将棋の対局におけるハンデキャップを指します。二人の対局者のうち棋力の高い方が、両者の棋力差に応じて自分の駒を落とすため、棋力差が大きければ大きいほどたくさんの駒を落とします。本来駒落ちは、勝敗の行方を分からなくすることにより、二人の対局自体をおもしろくするために行われてきたものなのですが、実は駒落ちは、将棋の学習という側面においても、とても効果的なのです。
特に将棋初心者の場合、平手(お互い全ての駒が揃った状態)での対局だと、駒の数が多いことで「どこに目を向ければいいのか分からない」「何を考えればいいのか分からない」という状況に陥りがちです。その点、駒落ちでの対局であれば、相手の駒の数が少なくなることで、相手の弱点や攻めどころがグッと見極めやすくなりますよね。
ただ、私は、駒落ちでの指導の場合、勝った負けたの結果よりも、そこで学ぶべきポイントをしっかりおさえるということが重要だと考えています。
そこで、今回のいつつブログでは、私が将棋初心者の子どもたちと駒落ちで指導するときに伝えている各駒落ちのパターン(駒落ちには10枚落ちや9枚落ち・・・と様々なパターンがあります)の達成目標(駒落ちによる対局で学んでほしいこと)について、「駒落ち攻略虎の巻」としてまとめてみました。 私はよく将棋を冒険に例えるのですが(絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん」でもそうですが)冒険に、羅針盤は不可欠ですよね。
歩なしの10枚落ち虎の巻
まずは駒落ちの中でも最も簡単な歩なしの10枚落ち(上手の駒が玉と歩のみ)からはじめます。いつつ将棋教室では本当に将棋を始めたばかりのお子さんとは「歩なしの10枚落ち」から練習します。「歩なし10枚落ち」のことを「お屋根(最前列にある歩)がない10枚落ちだよ」と伝えたりもしているのですが、屋根がないとお家も大変ですね。
歩なし10枚落ちの目標
飛・角を成る
さて、歩なしの10枚落ちでは、何と言っても、大駒と呼ばれる「飛・角」を上手く使えるようになるということを身に付けて欲しいと考えています。動きの大きな飛や角は将棋において攻めの主役。2つの大駒が活躍するとどれだけいいのかな、というのを味わってもらいたいと思っています。また、将棋の駒は成ることで動ける範囲を増やすことができます。つまり2つの大駒を成って「玉を捕まえる」という体験をすることが、駒落ちの最初の一歩である歩なし10枚落ちの最大の目標になります。
また、小さなお子さんにとっては、歩なし10枚落ちは、「飛→龍」「角→馬」という文字を理解する練習にもなります。子どもたちが成る度に私は「これはなんだったかな?」とたずねるようにしています( ´∀`)
なぜ歩なしの10枚落ちなのか
通常の10枚落ちだと、互いのお家にお屋根があるので(歩がいるので)すぐには成れません。成るためにはこのお屋根を崩さないといけないのですが、将棋初心者の子どもたちにとって、この歩のお屋根を崩すというのが、1つのハードルになってしまいます。 というのも、歩は一つずつしか動くことができないとても動きの遅い駒。なのでお屋根を崩そうと思っても、そう簡単にはいかないのです。
そこで、効果的なのが、歩なしの10枚落ちの練習です。歩なしの10枚落では、妨げとなる歩のお屋根が無くなるので、将棋初心者の子どもたちはその下の駒を自由自在にダイナミックに動かすことができます。特に、飛・角は最初の1手で成ることができるので、どんどん活用したくなりますよね。また、飛・角は成ると動きがプラスされるので将棋の駒の中で「最強の駒」になります。子どもたちは(特に男の子は)この「最強!」という言葉が大好きなので、将棋の駒の中で「最強の駒」を作るのがまず目標だよ、というと、すぐに理解してくれます、笑
ちなみに、「青空将棋」と言って通常の平手戦で歩をなしにした対局もあります。これらも歩の下の駒を動かす練習になりますので、機会があればぜひ試してください( ´∀`)
さらに強くなるために
飛・角を成って、玉を詰めることができれば、歩なしの10枚落ちとしては十分合格ラインなのですが、さらに上達するためにも、最短手数で相手の玉を詰ます方法を考えてみましょう。
玉の逃げ道をなくす
歩なしの10枚落ちに限った話ではありませんが、相手の玉を詰めようと思うと、「どうやって相手の王様を捕まえようか」と考えるよりも、「どうやって相手の王様の逃げ道を無くそうか」と考えるのもわかりやすいです。 例えば、歩なしの10枚落ちの場合、将棋初心者の子どもたちがやりがちなのが、飛を一段目に持ってきていきなり王手をかける一手です。確かに、王手をかけることができれば、もうすぐ相手の王様を捕まえられそうな気がしますよね。 しかし、この王手には、ちょっとした落とし穴があります。▲2一飛成と一段目で成ってしまったことで、相手の王様は上方に逃げることができますよね。こうなると、相手の王様はどんどん上へと移動し、広い場所へと逃げてしまいます。
ではどうすれば、もっと効率よく相手の玉を詰ませられるのか。その答えは、飛を一段目ではなく二段目で成ることです。 二段目で龍に成ることで二段目全体に龍の利きを及ぼすことができるので、相手の王さまの上方への逃げ道を完全にシャットアウトすることができます。教えるときには、写真のように目に見えない「利き」を見えるようにしてあげないといけないので、「飛の横のビームがきいているね。玉がこの二段目にあがると・・・あっちっち!ビームでやけどして上に上がれない!」ビームが熱いのかどうかはさておき^^;こんな感じでビームがあって玉が上にあがれないというのを少々大げさに伝えます(^^)
ここで1つ、指導者として大事なポイントもあります。駒落ちでは「駒を落としたほうが先に指す」という上手先手ルールが一般的なので、先に指してもいいのですが、そのときにいきなり玉を二段目にあがらず、右または左に動くようにしてほしいのです。そうしないと、子どもが「2段目に飛車を成る」効果を実感できないからです。
ここまでできたら、相手の王様は1段目をウロウロするだけです。馬を上手に使って玉に迫ります。このときに、馬をどんどんと近づけてあげるようにヒントをだします。うっかり「二段目の龍」を動かしてしまったら、「やった!」といって玉が上に逃げてください(このあたりは王様鬼ごっこのつかまえかた記事を参考にしてみてください)。馬をどんどん近づけてこの形(4図)まで来たらここで「詰み」の説明をしていきます。
玉をつかまえるときは「王手する駒」と「その駒を支えている駒」の2枚が必要だよと伝えます。はじめての将棋手引帖などのテキストで学んだ「詰み」は、こうした実戦を通して経験することでだんだんと自分のものになっていきます。詰みの形になったら「玉が逃げることができない」「そして王手をしているこの駒を取ったら・・?この駒に取られてしまう・・・」「間に駒を置くこともできない・・・」という3つを一緒に確認します。それから「あー負けだね。負けました。」と伝えます。
さて、今回は歩なしの10枚落ちについてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか?
1つの駒落ちの形について一度と言わず、だんだんとアドバイスをする回数を減らしながら、何度か試してみると子どもたちの定着度合いが分かっていいかもしれません。また今回は「上手の初手は左右どちらかにスライドする手」に限定していましたが、ちょっとコツがつかめてきたら2段目に上がる手を指してもいいかもしれません。コツをつかんだ子のなかには、それなら「3段目に飛を成ろう!」と応用できる子もいます。
また、中には飛と角以外の駒を動かしたがる子もいます。桂なんて面白い動きなので人気です。指導者からすると飛→龍と角→馬 だけで最短でつかまえるほうが効率的な「歩なし10枚落ち」ですが、他の駒を動かしても「あーそれはだめだめ。」なんて言わないであげてくださいね。少しばかり遠回りしても、大丈夫です。
歩なしの10枚落ちのおさらい
- 飛と角を成る
- 龍のビームを知る (見えない利きを意識する)
- 詰みができる
- 最短手数で玉を捕まえる
ここまでできれば完璧ですね( ´∀`)
次回の駒落ち攻略虎の巻では、10枚落ちの虎の巻についてお話ししたいと思います( ´∀`) いつつブログでは他にも将棋上達に関する記事を投稿しています( ^∀^)
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